■日々の業務で忙しい中、押さえるべき管理職の役割とは
管理職にありがちな勘違いが忙しさの原因に⁉
マネジメントの質は、コミュニケーションの質で決まる
管理職になって時間がなくなった。忙しさから抜け出せない。そんな悩みをよく耳にします。日々の業務に追われる管理職がどうしたら忙しさから解放され、チームの生産性を上げていくことができるのか。今回は管理職が押さえておくべき役割とその振る舞いを考えていきたいと思います。特に、多忙な管理職にありがちなのがコミュニケーションでの勘違い。忙しい時に部下に話しかけられたら、どう反応していますか。その振る舞いによってマネジメントの質が大きく変わってきます。
そもそも管理職の役割とは何か
プレイヤーから管理職になると、なんとなくプレイヤー感覚のまま管理職を務めがちになります。よくあるのが「自分が部下だった時の上司のように振る舞えばいいだろう」「数字を達成しなかった時、責任を負うのが自分の役割だ」といった自分勝手な管理職像をつくってしまうこと。そんな誤った感覚を持たないためにも、まずは管理職の役割をきちんと言語化し意識しておくことが大前提です。
では、管理職の役割とは何か?ひとつは既存の事業をいかに効率良く回していくかということ。もうひとつは、現状の運営管理をさらに工夫して利益率を上げたり、いかに付加価値を生み出していくかということ。この2つのために業務や人をマネジメントしていくことが管理職の役割です。
このことを自覚したうえでマネジメントのもっとも基本となるのが、全体の状況を把握することです。事業やチームがどのような状態にあるのか、メンバー一人ひとりがどんな状況にあるのか。全体を俯瞰し把握することではじめて正しいマネジメントを行う準備が整います。
もしかしたら「そんなことは言われるまでもない」と頭で理解されているかもしれません。では実際にどのように実践されているでしょうか。その実践において多くの管理職の方が勘違いをして失敗していることが多いんです。
管理職にありがちな勘違い
たとえば、進捗表や現場報告書などチームから上がってくる資料を入念に確認し、状況を把握することはひとつの方法だと思います。あるいは、全体会議を開いて気になるところを報告させることもひとつの手でしょう。会議なんて開かず、気になることがあればその都度担当者を呼び出し、「あれ、どうなっているんだ」と聞くという人も多いはずです。
もちろん、こうした方法を間違いとは言えないのですが、最適手ではありません。なぜなら自分が主体になり、自分の目線のみでチームを捉えようとしているからです。人間であれば意識しなくても自分の気になることばかりに目が行ってしまいます。初めからバイアスがかかっている状況で、さらに自ら動き、資料を確認したり、部下に報告を促したりしていると、あたかも自分が知ることや見ていることがチームのすべてのように勘違いしてしまいます。でも、一個人が認知できる情報なんて案外少ないです。自分ではうまくいっていると判断していたのに、思わぬところで問題が発生し「なんでこうなったんだ」ということがよく起こるのはのはその典型かもしれません。
つまり、自らコミュニケーションを図ろうとするだけでは、全体の一面しか見えず正確な状況把握ができないわけです。では、どうすべきか。ポイントは「相手を中心にしたコミュニケーション」です。それが限られた時間のなかで良質なコミュニケーションを生み出し、マネジメントの質を高め、忙しさからの解放にもつながります。
相手を中心にしたコミュニケーションとは?
押さえるべき3つのポイント
たとえば「あれ、どうなっているんだ」「〇〇について報告してよ」と業務の状況を確かめるだけでなく、「どう?」「何かたいへん?」といった、まずは気にかける簡単な声かけをみんなにしてみてください。こうした質問は何か具体的な返答を求めているわけではないので、相手が気になっていることを自由に話せるきっかけになります。これを日々習慣づけるだけで、得られる情報の質は大きく異なります。限られた視野や偏った枠組みを越えた情報が集まり、事業やプロジェクトの全体像への解像度が上がっていきます。
また、質問の意図を業務内容に絞っていないので、部下やメンバーの体調や価値観、精神状態などを知るきっかけにもなります。「仕事で何か困っていないか」と聞くだけでなく、体調やメンタルについて把握しておくことも管理職の重要な役割です。そうしたコミュニケーションによってさらに相手が主体的に話しやすくなります。
では、相手から話しかけられた時はいかがでしょうか。
たとえば、冒頭で述べた、忙しい時に部下に話しかけられたら、どう反応していますか。
有能な管理職ならどんなに忙しくても、いったん作業を止め、パソコンからも目を離し、部下のほうに身体を向けてしっかりと話を聞きます。もし、どうしても手が離せないのなら「5分待てるか?」と、顔と身体を相手に向けてから聞いて、後で時間をつくって話を聞きます。
自分自身が忙しい時は、相手の話を聞いてあげたいと思っても、目の前の作業が気になってしまい中途半端な状態で話を聞いてしまいます。勇気を振り絞って話かけた部下にしてみれば、うわの空で話を聞かれたらガッカリです。聞きたくないんだ..と誤解もされます。上司への信頼が薄れ、自らはコミュニケーションを取ろうと思わなくなってしまいます。忙しい時こそ相手を大切にする振る舞いをできるかが、管理職の良し悪しにつながります。
さらに、管理職がコミュニケ―ションの際にもっとも気をつけるべきことがあります。それが、相談を受けた時にまず「問題を解決してあげようとする振る舞い」です。
部下が悩みや問題を相談した時、いち早く解決してあげようと思い「あれはどのようにやったんだ?」「あれはこうしないといけないよ」と間髪入れずに質問したり自分のペースで話を進めていないでしょうか。
そうなればコミュニケーションの主導権はあなたが握っていることになります。部下にしてみれば詰問されているような状態。怖い面談を受けているようでやり切れない気持ちになるでしょう。実は、相談された時に良かれと思ってすぐにアドバイスをするのは悪手です。アドバイスが先行すると、相手がどう考えているのか、どのような感情を抱いているのかといった相手のことを知る機会を失ってしまいます。さらに、相手のネガティブな感情が増し、上司やリーダーに対する信頼や気持ちが離れていきます。せっかくの機会を相手のための時間ではなく、自分が解決したいために使っている時間となるのです。
管理する側が主導権を握って問題を解決するのではなく、まず先に相手の気持ちや考えを受け止めることが最優先。はじめに気持ちや状態を受け止めることができると、それは相手のための時間となり、そこから初めて建設的な会話ができるようになり、正確な事実も把握しやすくなり、一緒に問題を解決する方向へ進みます。それが、人を動かすために管理職が大切にするべきことなのです。
まとめ
組織をマネジメントするうえで全体的な状況を正しく把握することはもっとも大切なことです。しかし、忙しくなるほど自分が知りたいことや気になるところだけに目が向き、その限られた情報だけでマネジメントを行いがちになります。それによって偏った判断が生まれ、チームが瓦解することがよくあります。業務で忙しいからこそ状況を正確に把握するための良質なコミュニケーションが必要であり、それを生み出すマネジメントは“相手を主体にすること”です。